30-29 懐かしのコロッケ
学生の頃、コロッケ屋でアルバイトをしていた。
今はもう倒産してしまいその会社はないのだが、全盛期はわりと繁盛していたように思える。
キャッチャーな会社名とマスコットキャラクターでコロッケ産業の光り輝くスターのような新進気鋭のコロッケ屋であった。
デパ地下などに入っているテナント店と駅前などに売店として出店している路面店と2パターンあり、私は後者の路面店に配属された。
オーダーが入ったら冷凍コロッケを揚げるという至ってシンプルなお仕事。
またこのコロッケが冷凍なのに、サクサクした衣とじゃがいものホクホクした甘みがあり、種類も豊富で大変美味しかったことを記憶している。
王道のポテトコロッケに野菜コロッケ、かぼちゃコロッケ、カマンベールチーズコロッケ、細かい鶏肉が入ったチキンコロッケなど。
しかも一個60円前後なのだから、主婦や学生などに売れに売れた。
しかしながら私には今も鮮明に覚えている嫌な思い出がある。
コロッケの訪問販売をさせられたのである。
いきなり近隣の住宅地の地図を渡され訪問販売をしてこいと命じられたのだ。
一軒一軒インターホンを押して
「コロッケは要りませんか?」なんて不気味すぎるじゃないか。
その姿はさながらマッチ売りの少女であった。
優しいご婦人が何個か買ってくれたりしたが、とても採算に合わぬ仕事であった。
それから時は流れ、最近冷凍食品コーナーでこの会社の冷凍コロッケを偶然見つけた時は痺れた。
何かの運命を感じ購入し、自宅で揚げて食べたのだが、変わらぬクオリティにじんわり懐かしさが込み上げた。